正解のない問題を解くための力

正解のない問題を解く力=「概念化力」を育んでいく上でのサプリメント的なブログです

「正しいことを言えば理解してくれる」は間違い

「正しいことを言っているのに、皆が理解してくれない」

 

口に出して言わないものの、心の中でそう思っている人は多いはずです。特に技術者のように「正解のある問題」を解くことに慣れている人は、兎角、そのように思いがちです。

しかし、仕事を前に進める上で重要なのは「正しいことを言うこと」ではなく、「正しいことを相手に正しく理解してもらうこと」です。

以前にも取り上げたことのあるこのテーマを、今回も改めて取り上げることにしました。

 

あなたの正論を理解してもらえないとき、あなたが訴えかけたい相手は、あなたと同じ場所からそれを見ているとは限りません。あなたの立っている場所からは丸く見える屋根も、相手の場所からは三角にしか見えないのかもしれません。「なぜこの屋根の丸さが分からないのですか」と声を荒げたところで、そこに共感は生まれません。

 

まず心がけるべきは、相手や相手の状況を理解することです。

「相手はどういう立場にいるのか」「現状をどう感じているのか」「何を期待し、何を心配しているのか」などを理解することは、正しいことを正しく理解してもらうための第一歩なのです。

 

さて、相手を理解するための方法は後日お話しするとして、今回は幸いにも、相手や相手の状況を理解できたとしましょう。これであなたの考えは相手に正しく伝わるはずです。はたしてそうでしょうか。答えは「ノー」です。自分が正しいと思っていることを正しく伝えるには、正しいことを正しく理解してもらうためのシナリオが必要なのです。

 

シナリオは多くの場合、直線的ではなく、時に大回りせざるを得ません。そのため、シナリオの作成には辛抱強さや発想の柔軟性が求められます。

伝えたいと思っている「正しいこと」を要素分解し、それらの要素を巧妙につなぎ合わせ、さらに緻密なシナリオを組み立てなければならないこともあります。

 

例を挙げましょう。

 

[伝えたい事]

自前主義では通用しなくなった

 

[要素分解]

自前主義では通用しなくなった

        + - 市場はさらなる低価格と新鮮さを求めている

        + - 市場はこれまでの倍以上のスピードで変化している

        + - すべて自前では、各分野の専門家に勝てない

        + - 自前主義は価格を押し上げ、開発期間も縮まらない

        + - 組み合わせ型ベンチャー企業が勢力を伸ばしている

 

[シナリオ]

1.   市場が変わったことを相手に共感させる

   かつての市場は変化のスピードが遅かった

   顧客は製品の機能や性能に満足していなかった

   このような市場環境を背景に、私たちは自前主義で機能や性能を向上させ業界トップの地位に上り詰めた

   技術の進歩を背景に製品の使い勝手は向上し、低価格化は進み、市場は大幅にすそ野を広げた

2.   市場を形成するプレイヤーが変わったことを相手に共感させる

   市場の圧力は製品のモジュール化を促し、それぞれの分野で専門特化型企業が現れた

   彼らは低価格と対応スピードを強みに勢力を拡大した

   専門特化型企業をうまく活用すれば、資本や技術がなくてもブランドオーナーになれる時代になった

   商品企画力に軸足を置くベンチャーが現れ、そのスピード感は若者層を中心に受け入れられている

3.   競争基盤が変わったことを相手に共感させる

   市場は急激に成熟期に向かっており、私たちが提供してきた『こだわり』はかつての輝きを失った

   すそ野の顧客層は、低価格と新鮮さを求めている

4.   危機感を相手と共有する

   私たちが得意としてきた成熟度の高い顧客層の市場も、近い将来、大半がチャーに飲み込まれるだろう

   これまでのような自前主義では、新たな戦いには勝てない

   もし自前主義でいくなら、劇的な変化を成し遂げる必要がある

 

正解のある問題に慣れている人には、このような面倒な説明は苦痛かもしれません。「こんな面倒なこと、やっていられないよ」と言う人もいるでしょう。

しかし、そんな人には、「そんなことだから、あなたはいつになっても大きな仕事を任されないのですよ」と言います。

 

大きな仕事には、たくさんのステークホルダー(=利害関係者)が関わります。

彼らはそれぞれ、立ち位置が異なります。立ち位置が違えば見える世界も違い、それが問題意識や価値観の違いにつながります。意見を受け入れる背景が違うわけです。

正しいことをシンプルに「正しい」と伝えただけでは、理解のされ方が人それぞれになってしまうのも無理はないのです。

 

「私は正しいことしか言っていません。理解できないのは、単に相手の問題です」と考える人に、大きな仕事が任せられることはないのです。

 

 

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