正解のない問題を解くための力

正解のない問題を解く力=「概念化力」を育んでいく上でのサプリメント的なブログです

物事の大半は上流(=概念的に考える段階)で決まる

「私のような末端にできることはわずかしかありません」と、お客様から言われたことがあります。

彼は、「なぜ、もっと上流で手を打たないのですかね」と言葉を続けました。

私は彼に、かける言葉がありませんでした。

 

物事は兎角、最初が肝心です。下流よりも上流の方が重要なのです。

上流でやるべきことをやらずに、下流になってからその遅れを取り戻そうとすると、当初の数倍、数十倍の労力が必要です。

日本軍の失敗を組織論的な観点から研究した名著「失敗の本質」にも、「上層部の失敗を現場は補いきれない」「戦略のミスは戦術ではカバーできない」と書かれています。

 

製品開発における原価低減活動を例に説明しましょう。

 

私が自動車メーカーで自動車の設計業務に従事していたころ、すべての自動車メーカーは既に乾いた雑巾を絞るような原価低減に取り組んでいました。そして、原価低減の中心だった調達部門や製造部門の原価低減活動が限界に達し、経営陣の眼は上流である企画部門や設計部門に向きました。

 

下流である調達現場や製造現場は、設計の根本的な部分に手を加えることはできません。言わば「些細」なところに目を向け、「塵も積もれば山となる」的な施策を追及するしかありませんでした。自由度が極端に低く、できる内容は限られていたのです。

当時、調達部門や製造現場における原価低減の代表例と言えば、調達先の絞り込み、在庫削減、加工法の変更、組み立て手順の工夫、まとめ生産、生産ライン稼働率の向上、検査工程での手戻り低減などでした。

 

一方、上流である企画部門や設計部門では、そんなことはありません。例えば部材の強度は材料特性と形状で決まるのですが、形状を工夫するだけで数段安価な材料にスペックダウンすることができました。「下流工程を意識した設計」というアプローチで、複数の部品に分散していた機能を1つに集約し、組立費をゼロにすることもできました。

企画部門や設計部門における原価低減の代表例には、材料の変更(コスト意識が低い設計者は高価な材料を平気で使っていた)、過剰な表面処理の廃止、小型化や部品数削減、組み立て性を考慮した構造などがありました。私のいた会社では、それに加え、モジュラー設計(既開発品の再利用を促すための設計技術)、コンポーネントの標準化、新規開発許可制の採用などにも取り組みました。

 

この試みは、それまでとは比較にならないほどの大きな成果をもたらしました。

 

ではなぜ、それまでは「上流」での原価低減活動が行われてこなかったのでしょうか。

そこには、2つ理由がありました。

1つは「企画業務や設計業務に原価低減はそぐわない」という心理的な障壁、そしてもう1つは「企画業務、設計業務にどのようなやり方で原価低減を組み込めばいいかがわからない」というスキルの問題でした。

しかし、いざ具体的に取り組んでみると、理由として挙げられたこれらの問題はすぐに解決できました。単に、意識の問題にすぎなかったわけです。「現場がなんとかしてくれるだろう」は、私たち日本人のDNAに太古の昔から染みついるのです。

 

実は、顧客ニーズを製品コンセプトや設計思想に展開するという意味で、企画業務や設計業務は、まさに概念化そのものです。これらの上流工程で原価低減活動するということは、概念化活動の目的に「原価低減」を加え、その目的を実現し得る「本質」を追及するということに過ぎないのです。

 

この活動では、経営層の主導によって心理的な障壁を乗り越え、設計段階の度重なる議論と試行によりスキルの問題を乗り越えたことで、素晴らしい成果を上げることに成功しました。

「現場任せ(下流=具体的に考える段階)」の限界を知り、それまでは苦手ゆえに野放し(=アンタッチャブル)だった「企画、設計(上流=概念的に考える段階)」にメスを入れる覚悟を決めた、その結果だったと言えるでしょう。

 

これは一例に過ぎませんが、多くのビジネスの上流でも、同様なことは起こり得ます。

概念化を意識しそれに立ち向かうことで、乗り越えられる壁は多いはずなのです。

 「鉄は熱いうちに打て」

何事も柔軟性のある若いうちに鍛えるべしという意味の例えですが、今こそ私たちはこの言葉の意味を再解釈し、肝に銘じなければなりません。

 

 

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