正解のない問題を解くための力

正解のない問題を解く力=「概念化力」を育んでいく上でのサプリメント的なブログです

現場の意見をバインドしただけの事業計画に将来は感じない

 

トップダウンか、ボトムアップか」は何かにつけ議論になります。

「欧米型はトップダウンで日本型はボトムアップ」とよく言われますが、この意見には、日本企業にも外資系企業にも勤めたことのある私も異論はありません。ただし、取り扱いには注意が必要です。

 

「うちも欧米企業のようにトップダウン経営を導入して、経営のスピードアップを図らなければならない」という声を、たまに耳にします。しかし、話はそれほど簡単ではありません。トップダウン経営やボトムアップ経営の具体的なイメージを持っている人が多くないからです。トップダウン経営の具体的なイメージのない人が「うちもトップダウンにするぞ」と言ったところで、いったい何を変えられるというのでしょう。

 

トップダウンボトムアップの違いは、事業計画の作成シーンに顕著に表れます。

 

[意思決定がボトムアップ型の日本企業における事業計画作成の流れ]

 

1.      事業のトップが大雑把で根拠が曖昧な目標数字を「希望的」に宣言する

2.      標数字を、曖昧な根拠の下に、事業を構成する各部門に割り振る

3.      各部門の担当(=現場)が活動計画を作成する

4.      部門ごとの活動計画をそのままに、全体最適の観点から吟味することなくひとつに取りまとめ、目標数字との整合と見た目の書き方(だけ)を意識しながら事業計画を作成する

 

やや大げさかもしれませんが、現状は似たようなものです。

 

昭和の時代ならいざ知らず、平成も終わろうとしている昨今、現場から上がってきたボトムアップの数字を足し算して事業全体の目標数字とする上場企業はまずありません。外圧が、それを許してくれないからです。

しかし、事業計画が「絵に描いた餅」で、達成根拠のない数字を目標数字として掲げている企業は少なくありません。前述の事業計画手法は、達成見込みのない数字を掲げて周囲(特に株主や投資家などの外部のステークホルダー)をぬか喜びさせるという意味で、極めて罪深いと言えるでしょう。

 

この原因は、もともとのボトムアップ体質を色濃く残したまま、表面上はトップダウンを装っていることにあります。

この事業計画手法は、現場の自主性をいいことに、数字の帳尻合わせをしたに過ぎません。計画上、一番やってはいけないのがこの「帳尻合わせ」です。帳尻を合わせするために割り振られた数字に対して現場は責任を感じないからです。現場は数字が割り振られた瞬間に「できるはずない」と思っています。これが、私がよく口にする「持ち主のいない数字」です。この数字は、持ち主がいないまま放置されてしまうのです。

こんな事業計画の立て方をする企業に、将来はありません。

 

次に、私が知っている欧米企業のやり方を紹介します。

 

[意思決定がトップダウン型の欧米企業における事業計画の流れ]

 

1.      事業のトップやその取り巻きが中心となって事業環境(外圧と内圧)を分析し、トップはこの事業環境を背景に目標数字を宣言する

2.      目標達成に向け、組織を代表する計画部門が事業方針や概略の事業計画を作成する

3.      事業を構成する各部門から情報収集した上で、目標数字を割り振る

4.      各部門は、目標達成に向けた活動計画を作成し、その実現に必要な投資を組織に対して要求する

5.      組織を代表する計画部門は上がってきた活動計画を精査し、事業方針との整合や部門横断的なシナジーを図った上で事業計画を作成し、投資を許可する

 

ちなみにこのケースでは、各部門の担当が活動計画作成にあたり、目標達成を裏付けられるまで目標達成のための手段を積み上げます。すでに手中にある手段を積み上げただけで目標数値を調整する日本企業との決定的な違いがここにあります。

 

概念的な事業方針や事業計画と具体的な現場の活動計画を結び付け、全体像をうまく描けているという点で、私は、欧米企業のほうがマネジメントの成熟度は高いと考えています。

勘違いしないでください。私は、すべてにおいて日本企業のやり方を否定しているわけではありません。むしろその逆です。しかし、マネジメントに関しては欧米企業に軍配を上げます。

 

外資系企業の現場で働いていたころのことを思い出しながら、事業計画作成の具体的な流れを紹介しておきましょう。

 

   まず、会計年度の前半に、グローバル本社から担当幹部とその取り巻きが来日する

   彼らは日本の事情を聴きとり、要求を受け取る
ただしこのとき、受け取りはするが、約束はしない

   その半年後に、日本に目標数字が降ってくる

   それからやや遅れて、前回と同じグローバル本社のメンバーが再来日する
再来日までのわずかな期間に、日本では、現法社長を中心に目標数字に対する対応方針が議論され、目標達成に向けた活動計画が練られる

   再来日したメンバーは、グローバル戦略やそのポイント、目標数字の根拠などを説明する
これに対して日本側からは、かねてから準備していた対応方針や活動計画などをプレゼンテーションする

   議論の終盤に、来日メンバーから、目標数字を変更することはないが目標達成のための追加活動が必要であれば、活動計画のデキにもよるが、投資枠増額の準備がある旨の説明がある(恒例)

   日本側は追加活動を盛り込んで速やかに活動計画を修正し、グローバル本社でプレゼンテーションする
プレゼンテーションがうまくいけば、投資枠を増額してもらえる

   活動計画を実行ベースに詳細化した上で、人材採用を開始し、組織体制を固め、各アカウントチームはアカウントプランを完成する

 

最後に付け加えておきますが、このような日本企業と欧米企業の違いには、組織のピラミッド構造の違いが強く影響しています。

 

間接コストを嫌い、ピラミッドの底辺に人的資源を集中させることの多い日本企業に対し、欧米企業はピラミッドの縦軸(頂点から底辺に向かう線上)にかなりの質と量の人的資源を配置します。トップダウン型の意思決定を支えるのは、彼らの重要な仕事です。

欧米企業が、ともすれば煩雑で手間のかかるトップダウン型を維持できるのは、このおかげです。

 

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